夏の返信





午後に、手紙が届いた。
遠く東洋の国からの配達でも、彼女の遣っているカラスは平然としていて、行き届いた教育をいかん
なく発揮して私の肩に無理矢理とまり、頭を思いのほか強く嘴で突いた。
飼い主に似てうっとおしい。
けばけばしい色遣いの花柄の封筒にまた別の色味の花柄の便箋。内容はといえば、こっちは死ぬ
ほど暑いです今先生が想像したのの5倍は暑いです死にそうです死にます、ところで休み前に作り
はじめていた薬が完成したころですねどうなりましたか成功しましたか私がいないと夜の番がいなく
て大変でしょう予定より早く戻ってもいいんですよ先生が望むのなら、こちらは退屈です早く戻りた
い、夏の休暇の課題の進行、マグル界の動向、云々。

便箋数枚に渡る彼女の日記のような、生活の記録のような、雑記。便箋は彼女の常用している香
水の匂いが微かにした。直接吹き付けたのではなく、香水を伸ばした手首でしたためたのだろうこと
がわかる。ねえ、先生。そうでしょう?先生。先生は、どう思います?彼女の声を、長いこと聞いてい
ないような気分がした。この部屋で、そこのドアで、見送ったのは一カ月とすこし前、その程度のこと
なのに。

彼女のカラスは返事を書かない限り居座ることは分かっていたので、急ぎ短い返信を書きつけた。こ
ちらとてうんざりするほど暑いのでこの時期はあまり仕事はしないつもりだ。毎日本を読んで過ごして
いる。薬は一人で出来た。とくに望まないゆっくりして来賜え。早く戻ってこられてもやる事など無い。
課題は手伝わない。あまりそうやって強い薬ばかり作って多用するものではない。いつも通
りのやり取り。

明かり取りの天窓から差し込む日が明るすぎて、やや倦んだ気分になる。彼女がいれば、こ
んなただ日付が進むのを待つだけの休暇も、なにか違ったものになるのだろうかと思う。休暇を一緒
に、と彼女を誘う自分と、それを聞いた彼女の顔。想像するだに滑稽だ。返信を託した鳥を見送り、
分厚いガラス窓を閉める。彼女がここに戻ってくるまであと数週間。それまではこの静寂を愉しんで
おくことにしよう。 薄暗い夏の静けさの中で、ここにいない彼女のことを考えるのは妙に快いこと
だった。




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帰省中の手紙のやり取りもえます








ゆで