真夏の疼痛









元来ほとんど汗をかくことのない体質ではあるのだが、例外、というか限度というものがあるのだ。
全く不快だ、シャツが湿った背中に触れる感触も、首筋にべったりとまとわりつく髪も、逃げ場のない息苦しさ
も。暴力的なほどの日差し。陰影が濃すぎて、視神経がどんどん疲弊する。


は先ほどから、黙ってぼんやりと窓の外を見上げている。半地下の教室からは、容赦のない温度を地
上に降らせる空しか、見えるものはないはずだが。
生徒のいない教室は完璧に静まり返って、私の紙を繰る音だけが、やけに大きく響く。



頬杖をついたの左手の甲に、大きく白いガーゼが貼られている。2日前の実験中に、火傷をしたのだ。
驚いて咄嗟に高濃度薬液の水槽に腕ごと叩きこんだが、疵が残るだろうか。は、大げさだと笑った。










――――――しばらく、頭が暑さで蕩けていた。


はぼうっとしていた視線を、突然はっきりと手元の羊皮紙に落として、勢いよくペンを走らせ始めた。どう
やらぼんやりとしていたように見えたのは、彼女が全神経を思考活動に集中させていたせいだったらしい。今までさ
らりと乾いて暑さを感じさせなかった額に、汗がどんどん滲む。



十数分後、爽快な笑顔で私にレポートを手渡したの、前髪の先に汗のしずくが伝っていた。

「どうです?」
「…部屋で読ませてくれ。限界だ」


やけに湿度の高い苦笑を交わす。

至極満足な気持ちになった。部屋へ帰って、氷嚢をやろう。暑さで傷が膿んでしまうと困るから。







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猛暑日。
時事ネタ。…かな?



20100904

ゆで