おわり それを口に出したらいけないと長いこと、長いこと考えていた。何かがふとしたきっかけで決定的に壊れてしまうような気持がしていた。 そこに何があるのかも直視できないまま。そうして、何年も何年も、見て見ぬふりをしてきたものは、いつのまにかもやもやとしたまま 大きく肥大し、意識できないほどゆるやかに、私たち二人の首を圧迫していたのだと今になってぼんやりと思う。見て見ぬふりをしている という認識すら、視界の外へと追いやった。時間はあっというまに、取り返しがつかないほどに、過ぎてしまった。 先生は死んでしまった。たくさんの死者が出た夜だった。1年以上振りに再会した先生の頬は白く、冷たく、なんだこれじゃあいつもと変わ らないじゃないかと思った刹那、生々しい傷跡が目に飛び込んだ。死んでいる。足が震えた。 私は先生の自室に密かに引き籠り、それから数日間、錯乱と放心を繰り返した。その間に何人かが部屋を訪れ、先生の身柄に関することや私の ことについてなにか話していたが、そのたびに生返事をした。まだ埋葬することはできないと、まとまらない頭でそう考え、遺体を薬学の教室 に引き取って適当な防腐処置をした。作業台に寝かせ、白いシーツをかける。こんな地下室に死体と一緒にいたところで、気がおかしくなって しまうよ、と誰かが言った。私は聞こえないふりをした。一度ポッターが訪れ、瓶に詰めた先生の記憶というものを見せながらまとまりのない ことをだくだくと話した。そこで私は、あの写真がどこの誰なのか…だったのか、といった方が正しかったのだが…を知った。私の錯乱はその 夜に頂点を極めた。先生が何をしていたのかを、ようやく、全て知ることとなった。 椅子に座ったまま、作業机の先生の冷たく固い手を握って眠った。このまま目覚めなければいいと強く願ったが、世界は私にそう優しくはなかった。 死んだらなにもなくなる。そのことが私と、そして先生にとってなにより重要なことだった。先生はようやく、愛することも、その所為で苦しむこと もなくなったのだ。そう思うと、幾分か心が安らいだ。それはきっと、先生が心から望んでいたことだ。考えてみれば、私はほんの5、6年一緒に いたにすぎないが、そうとしか考えられなかった。もはや先生は、あの人が欲しかったのではなく、ただ苦しかったのだ。忘れることもできずに 苦しんでいた先生は、きっとこの無を望んでいただろう。被せていたシーツを除けて、先生の顔を見降ろした。青白い頬。ぽつりと涙が落ちる。 私が欲しいものも、いままさにその無だった。私も死んでしまいたかった。 ---------------------------------------------------------------------------------- 映画みてきました…ないた… マクゴナガルと戦ってた時の先生がカッコよすぎてたまらなかった です! ゆで