あい・あい 「でもね、あたしとしては、やっぱり前よりはなんか心の扉みたいなものが 開いてきた気がするんだけど、でもなんだかそのぶん先生にとっての自分の スタンスがよくわかんなくなってきたってゆうか」 小さいベッドから身を乗り出すくらい熱っぽく話す私の隣のベッドで、 女友達はさっきからペディキュアの手入れに余念がない。 ・・・聞いちゃいねえ。 「ねーえーきーいーてー」 「うぜえ!」 「ひ、ひどい!」 厳しい一瞥で一蹴され、私は枕に思い切り倒れこむ。 揮発したエタノールのにおいが、不快じゃない程度に部屋に漂っている。 「スネイプ以外の話題ないの、あんたは」 「んー・・・あるにはあるけどなー、気が進まないなー」 「・・・寝ろ!」 はいはい、とふてくされて見せながら、足もとからお布団をひっぱり上げる。 仰向けになって、真上に両手を上げて、自分の爪の先をみつめる。 「う――――ん」 「、明かり消してもいい?」 「よいよ」 ぼんやりしたオレンジ色の光が消えて、私は横向きに足を抱えて就寝体勢に入る。 先生。 眠りに落ちる前に、今日の先生を脳内リプレイする。 「先生もう寝たかな。どうしても寝れなくって困ってないかな」 「・・・・・・寝ろ!!」 怒られた。 ------------------------------------------------------------------------------- ・・・朝一番の鐘。 女子寮の朝は、洗顔フォームと化粧水と、ファンデーションと パウダーと、いろんな香水のにおい。あわただしくみんなと一緒に 顔を洗って念入りに顔を作って。 (女の舞台裏ってやつね) 覚えたての風の呪文でマスカラを乾かしていると、ベッドサイドチェストの上で 飼ってる小さい鶏 (3センチほどで、ちゃんとしつけると頼んだ時間に鳴いてくれるアラーム機能つき。 ダイアゴンで3シックル)がいつもの時間を教えてくれる。 「わ。やばっ、遅刻」 ハイソックスを急いで引き上げて、ベッドからローファーのうえに着地。 鞄に教科書とメイクポーチ、おやつを突っ込んで、一番早く談話室への階段をかけ降りる。 地下って言ったって、ここから魔法薬の教室のエリアまではけっこうあるのだ。 毎日毎日きちんと時間どおりの行動をしてくれる先生まで、あと3分・・・ 2分・・・ もう少し・・・ 「せんせ―――い!!!」 一目でわかる、黒くて広い背中。 呼ばれてても振り返らないところが、なんかもう、大好きでしかたない。 まわりの世界を遮断しているような黒いドレープのマントに、 無神経はなはだしく駆け込んでいく。 「おはようございます、先生」 鏡の前で、毎晩予行練習を繰り返す笑顔。 「・・・おはよう、ミス・」 これほど嘘くさく見える笑顔なんてこの世に存在しないであろう、 先生の(口元限定の)笑顔。 あなたと恋するために、私生まれてきました! 心の中で笑ってそう申告して、私の1日はここからようやく始まる。 倉橋/ヨエコの「あいあい」はスネイプ夢的に神曲だとおもいます。 あーい!あーい! ゆで